物質の融解は,その物質が固体であるときの自由エネルギーと液体であるときの自由エネルギーが等しくなる温度で起こる.この融解温度を求める正攻法は,その物質の固体と液体の自由エネルギーをそれぞれ計算し,文字通りこれらが一致する温度を求めることである.しかし,この方法を実行することは非常に困難な作業となる.固体と液体の自由エネルギーの差は,自由エネルギー自体に比べて何桁も小さいため,固体・液体それぞれの自由エネルギーを近似的に求めるときに何桁もの精度が要求されるからである.ここでは,この問題を回避して,金属の融解の場合に固体側からだけのアプローチで融解温度を決定する方法を提案した.それは,融解温度にきわめて近い温度で格子が不安定化して,格子振動の横波成分が消失するはずであるという考えに基づく.今まで,いくつかの近似のもとで横波成分が消失する条件から,金属の融解温度を与える公式を導出した.この融解温度は,物質定数として,最近接のイオン間隔,イオンの価数,金属電子の有効質量だけを含む簡潔なものである.この公式がアルカリ金属などの融解温度の実験値と比較して良好な値を与えることを確認している.この公式がその他の物質に対して有効であるかや,いろいろな条件に適応するように改良ができるかを継続して研究している.
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