文部科学省が新学習指導要領の中で「主体的・対話的で深い学び」を掲げ、2018年度からは小学校や中学校で順次「道徳の教科化」が開始されました。それによって、より一層 「対話」が重視され、「考え、議論する」態度が推奨されています。
こうした流れの背景には、知識伝達型の座学の行き詰まりや、旧来のモラル教育の手ごたえのなさなどがあります。その一方で、形ばかりのグループワークを実施して、あたかも生徒たちが「主体的かつ対話的」に学んだことにする授業や、依然として「結論ありき」の道徳授業をやらざるをえない現実に、教師たちも悩んでいます。
そこで注目されているのが、「哲学対話」です。1970年代にアメリカの哲学者マシュー・リップマンが考案した学校教育プログラムで、英語圏では“Philosophy for Children”(P4C:子どものための哲学)の呼称で知られています。今日ではさまざまな国の小学校、中学校、高校、大学で実践されつつあります。それは同時に、「対話」が持つ効果に着目し、教育現場に限らず、さまざまな実践の場で対話を活かしてゆこうとする活動の総称でもあります。そのため、フランス由来の「哲学カフェ」とも緩やかに結びついています。日本でも、その活動は全国に分布しています。近年では、役所や企業でも、その効果に着目し、地域活性化や地方創生、社内研修などに導入する動きがあります 。「話し合いにならない場」を「話し合いの場」に転換させる力が哲学対話にはあります。
この哲学対話を基軸とした対話理論や教育手法の研究を、理論と実践の両面から行っています。同時に、哲学教育に基づいた市民教育・家庭教育・道徳教育の再生を模索しています。学校、企業、市民団体のイベントなど、さまざまな場所で哲学対話の実践と導入を試みています。哲学的-対話的思考に基づく人間教育と、共同的思考による共同体の再生を目指しています。2020~2021年度は、コロナ禍という特殊な状況において顕著となった問題を契機に、コロナ後の社会を見据えた学校教育、家庭教育、市民教育、道徳教育のあり方や、アフターコロナの市民社会のゆくえを、主に自由と抑圧の観点から考え、研究発表や講演という形で公表しました。
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