個別研究テーマ編集

田代孝二特任教授
特任教授 田代孝二

掲載年度

2019

個別研究テーマ
(日本語)

高分子の構造物性相関の分子論的解明(Molecular Theoretical Study of Structure-Property Relationship of Polymers)

個別研究テーマ
(英語)

研究者 田代孝二
研究概要

高分子材料の構造物性相関を分子レベルから解明するために、結晶及び非晶領域の分子鎖形態ならびに充填状態の解析、分子運動の解析、高次構造における分子鎖集合状態の解析、そして、これら様々の階層の構造形成機構の解明を行った。これらの構造情報に基づいて様々の物性を分子論的に推定、実測との比較を行うと共に、従来よりもさらに優れた新規高分子材料の開発に向けた分子設計を試みた。

①高分子結晶の精密構造解析技術の展開(X線、電子線、中性子線による回折データを詳細に解析し、水素原子の抽出は勿論、高分子化合物の結合電子密度分布評価に初めて成功した。)
②高分子結晶の分子運動、分子鎖間相互作用の解析(赤外ラマン分光法および動力学ならびに量子化学計算)
③高分子高次構造解析の精密解析
④高分子の高次構造形成過程および相転移現象の高速時間分解測定ならびに計算機シミュレーション(溶媒誘起結晶化現象、等温結晶化現象、光誘起固相重合反応、高電圧下での相転移の解析など)
⑤高分子の極限物性ならびにマクロ物性の理論的及び実験的評価
⑥優れた高分子材料の分子設計

(1)高分子結晶の精密構造解析技術の展開
 一般に高分子結晶の精度は低分子に比べると相当に低く、物性評価などの定量性に劣る。これを解決するためには、各原子位置、中でも水素原子位置の精密な決定が不可欠となる。我々は、放射光の短波長X線源を利用し反射の数を従来の10倍も多く増やすことに成功し、高分子の精密な構造解析に成功した(ポリオキシメチレン)。また、重水素化物を用いた試料の中性子広角回折図形を測定し、水素原子位置の決定を確実なものにし得た(ポリオキシメチレン、ポリエチレン)。また、高分子材料として初めて骨格鎖に沿った結合電子密度の定量的解明を行った(ポリジアセチレン)。ポリビニルアルコールーヨウ素錯体、セルロースーヨウ素錯体、フッ素系高分子、ポリ乳酸、ポリ乳酸ステレオコンプレックス、ポリヒドロキシブチラートなど様々の重要な高分子について、精密結晶構造解析に成功した。これらの材料を扱う産業界にとって不可欠な情報として高く評価されている。

(2)高分子結晶の分子運動、分子鎖間相互作用の解析
 高分子の物性評価のためには分子鎖間相互作用の定量的評価が不可欠である。我々は、赤外ラマン振動分光法を中心に、高分子鎖の振動状態の解析を詳細に行い、温度変化や外部応力印加にともなうスペクトル変化から分子内分子間相互作用の評価を行っている。また、赤外ラマンスペクトルは分子鎖コンホーメーションに極めて敏感であり、結晶相転移における構造変化の追跡などにも本質的な役割を果たしている。

(3)高分子高次構造解析の精密解析
 高分子は複雑な階層構造を示す。分子鎖の集合した板状ラメラは互いに積層し、それらが更に集まって球晶を形成する。この試料を延伸したりするとラメラの変形、破壊など大きな構造変化が生じる。これらの高次組織の解明のために、我々は小角X線散乱と広角X線散乱を組み合わせたり、小角光散乱で球晶の形態を調べたりしている。結晶格子の中で起こる相転移現象は、極めて敏感にこれらの高次組織に反映する。特に局所的に起こる構造変化を詳しく追跡するために、放射光マイクロビームの利用を行い、キンク形成と構造変化との関わり、球晶のねじれ構造と不連続ラメラブロック集合状態との関係解明などを行った。特に後者は、これまで常識とされてきた高分子球晶の高次構造について再考を促す上で一石を投じたものとして世界的に注目されている。

(4)高分子高次構造形成過程および相転移現象の逐次的追跡
 このような高次構造がメルト状態からどのような過程を経て形成されるのか、我々は超強力な放射光X線を用いた高速時間分解測定を行い、高分子の結晶化過程や相転移現象における構造変化を詳細に追跡している。もちろん温度変化や張力印加など、様々の外部場下における構造変化についても検討しており、計算機シミュレーションと合わせて、具体的なメカニズムの解明を行っている。赤外やラマンスペクトルの時間分解測定もこの目的のためには極めて重要であり、結晶化に伴う分子鎖構造の秩序化過程などを調べることに成功している。特に広角X線回折、小角X線散乱、赤外分光法の3装置同時高速時間分解測定システムの世界で初めての開発成功は、高分子の階層構造の時間発展過程の追跡に極めて重要な技術として高く評価されている。また、光を照射することによって生じる固相重合反応における構造発展過程を逐一追跡していくなど、化学反応についても新しい知見を得つつある。これらの研究をより発展させるべく、世界で初めて穴あき光子計測システムを構築し、広角X線回折と小角X線散乱の同時測定をより高い定量性をもって実施できるようになった。

(5)高分子の極限物性ならびにマクロ物性の理論的及び実験的評価
 高分子のマクロな物性を構造との相関から明らかにする目的で上記の(1)~(4)の研究を行われているが、構造が明らかになった時点で、様々の力学複合模型に基づいて、試料全体としてのマクロな力学物性の理解、応力の不均一分布について詳細な検討を行っている。中でも、炭素繊維に外部張力を与えた場合の応力不均一分布、絹やポリビニルアルコール繊維の乾湿変化に伴う超収縮過程における高次構造変化と力学物性との関わり、などについて詳細な解析に成功した点は高く注目されている。また、結晶構造から予測される物性はその高分子がとり得る極限物性と考えられるが、その値を実験ならびに理論計算の立場から評価し、優れた高分子材料の開発の上での重要な指針として世界に供出している。さらには偏光板として重要なポリビニルアルコール=ヨウ素錯体の構造形成機構を量子化学計算に基づいて明らかにし、さらに優れた偏光板の開発における重要な指針を与えた。

(6)優れた高分子材料の分子設計
 高分子の構造と物性の相関が明らかになると、それらの間に横たわる種々の因子を考慮して、優れた物性を有する高分子の開発が可能となる。例えば、ポリアセチレンを3次元架橋できたとすると、理論的にはダイヤモンドの2倍も強い合成高分子が作成できる可能性がある。あるいは、高温におけるヤング率の低下を防ぐための手段の提案など、分子設計のための情報を編み出している。また、燃料電池のための高分子電解質膜の設計なども試みており、効率のよいプロトン伝導性を与える構造の検討を行った。

(7)天然高分子の階層構造と力学物性との関わり解明
 家蚕やクモの作るシルクに比べ、ミノムシのシルクが圧倒的に優れた力学物性を示すこと、そして、その原因が秩序高い階層構造形成にあることを農研機構との共同研究によって見出した。これはNature Communicationsからプレスリリースされ、世界的に大きな注目を浴びている。

close

ページのトップへ戻る